技術ファイル|映像・写真・デザイン・情報【論文 編】

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公開の美術|野外の著作物は自由に撮影して公開できるのか!?

公開の美術とは、(「街路、公園その他一般公衆に解放されている野外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい野外の場所に恒常的に設置する場合」著作権法第四十五条二項)に適合する美術の著作物である。著作物とは、(「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」同法第二条一項)であり、著作権法によって保護される創作物である。ここでは、著作権法第四十六条の公開の美術の著作物等の利用についての見解を述べる。

ガンダム
人物が写り込む場合は、肖像権に配慮しなくてはならない。

初めに、公開の美術の著作物等の利用(著作権法第四十六条)とは、前条二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず利用できることを定めている。(「彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合」同条一項)。(「建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合」同条二項)。(「前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合」同条三項)。専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合」同条四項)である。しかし、この規範は、表現活動を助長する優れたものとも解釈できるが、これには重要な問題点もある。

まず、対象となるものが美術の著作物なのか、そして、公開の美術なのか、さらに、同条四項の「専ら」とはどの程度の制約なのか、という三点が判断できなくては実質的に利用できないことである。仮に、旅行中に野外展示されている神秘的な被写体に遭遇しても、これらに関する正しい知識がなければ、写真撮影やスケッチをためらったり、著作権の侵害を恐れて絵作りが消極的になったり、対象を表現する行為そのものを避ける心理が働くことが懸念される。情報化社会の現状や近代憲法で保障される表現の自由の尊重を考慮すると、一般向けにもっと判断しやすいガイドラインを整備すべきではないだろうか。

潮風公園
この日は、お台場ガンダムの公開最終日。
関東南部に台風が直撃したにも関わらず、多くのファンが詰め掛けた。

次に、公開の美術を巡って争われた裁判例に、横浜市営バス事件(東京地方裁判所・平成十三年七月二十五日判決)がある。裁判の争点は、原告側がバスの外観に施したペイントに著作物性があるか、移動するそのバスが公開の美術として成立するのか、被告側が出版した書籍は、著作権法第四十六条四項に適合するものか、である。公園等に設置されている歴史上の人物(戦国武将や幕末の志士等)の銅像であれば判断しやすいが、この例は、同法第四十六条の盲点を突く極めて興味深いものである。

司法の見解として、バスの外観に施されたペイントについては、独創的なタッチからも思想や感情が創作的に表現されているとされ、著作権が認められた。公開の美術の条件に関しては、「不特定多数の者が見ようとすれば自由に見ることができる広く開放された場所を指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは、市営バスとして、一般公衆に開放されている屋外の場所である公道を運行するのであるから、原告作品もまた、『一般公衆に開放されている屋外の場所』又は『一般公衆の見やすい屋外の場所』にある」という判断である。

このことから、恒常的な設置とは、一般的な建築物や銅像のように固定されている必要はなく、また常時継続して公衆に公開される状態に置かれていれば条件を満たすと考えられる。しかし、この判例では公開期間についての具体的見解がない。二、三週間の設置であった場合はどうかなど、検証の余地は残る。現在の横浜市営バスのラッピングバス広告の掲載期間が一ケ月、三ケ月、六ケ月、一年であることを考慮すると、数日間の限定ではなく、少なくとも一ケ月以上は必要であり、公開美術を利用する際の注意点としては、設置期間にも気を配る必要があるだろう。

ガンダム
実物大ガンダムは潮風公園に3ケ月以上設置され、述べ500万人以上に公開された。
勿論、“公開の美術”に該当する。

最後に、被告側の出版物の同法第四十六条への適合性であるが、書籍は全46頁からなり、『なかよし絵本シリーズ5・まちをはしるーはたらくじどうしゃ』という表題で有料で販売された。掲載箇所は表紙中央部に約8cm×約14cmで1点、14頁目の左上に約3cm×約7cmの1点、合計で2点である。売上を大きく左右する表紙に写真をカラーで目立つように掲載された形だが、これは同条四項の「専ら」の範囲なのだろうか。この専らの基準は、書籍全体の構成に対する原告側の著作物の掲載比率が大きく関係する。即ち、主従関係の「従」であるかどうかが重要な判断材料となる。全46頁構成で24種類の車種が紹介されており、原告側の著作物は1車種であり、掲載箇所は表紙を含めて二頁である。しかも紙面を原告側の著作物が占有しているわけでもない。よって、明らかに従の立場であり、専ら美術の著作物の複製物の販売を目的としての複製には該当しない。司法の見解も同上である。

以上のように、公開の美術の著作権について述べてみた。昨今、凄まじいスピードで進化するネット社会の現状を考えると、この第四十六条規定を正しく理解することは、肖像権問題と並び、ブログでの写真公開や写真展の開催、印刷物の出版等に大きく役立つものである。何時間も苦労して自分で撮った写真が、実は自由に公開できないものだったとしたら、無知ゆえに招いた自業自得とはいえ、それは悲しいことではないだろうか。

写真撮影:堤原稚登
【出典】
志田陽子 著『新版 表現活動と法』武蔵野美術大学出版局2009
日本写真家協会編『スナップ写真のルールとマナー』朝日新聞出版2008第3刷
日本写真家協会編『写真著作権』草の根出版会2005改訂版
日本グラフィックデザイナー協会編『グラフィックデザイナーの著作権Q&A』日本グラフィックデザイナー協会2005第3刷
裁判所ウェブサイト『判例検索システム』法務省http://www.courts.go.jp/

2011年10月某日

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