技術ファイル|映像・写真・デザイン・情報【論文 編】

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ショーウィンドウは自由に撮影して公開できるのか!?

前稿では公開の美術を巡って争われた裁判として、横浜市営バス事件(東京地方裁判所・平成十三年七月二十五日判決)を挙げ、ペイントの著作物性、ペイントされた移動するバスの公開の美術としての認否、出版された絵本の同法第四十六条四項への適合性等を考察した。本稿でも引き続き公開の美術を主題にするが、ここでは別の事例として、ビルのテナントなどが設置するショーウィンドウが公開の美術として成立するのか、また、その関係性について考察する。

ショーウィンドウ
近年のマネキンは、かなり精巧に制作されている。

繁華街を歩いていると、通りに面したビルの一階にはブランド物のバックや衣服などを、丁寧にディスプレイされたショーウィンドウが目を引く。様々な工夫が施され、さながらオブジェのように感じるものもある。そんなショーウィンドウをデジカメで写真に撮った時、無断で自由に公開してもよいものかどうか、意外と悩む人も多いだろう。事実、ネット上でも同上の質問が散見される。公開の美術とは、(「街路、公園その他一般公衆に解放されている野外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい野外の場所に恒常的に設置する場合」著作権法第四十五条二項)に適合する美術の著作物であり、4つの条件を満たせば自由に利用できるものである。

それでは、ショーウィンドウはこれらの条件に適合するのだろうか。まず、ショーウィンドウは法曹関係者の間でも、(※1)建造物の内部であって屋外の場所ではなく、同法四十六条の対象外とする見解と、(※2)公衆の見やすい屋外の場所であるため同条の対象であるとする見解がある。私的には、建物の内部であろうと外部であろうと、ショーウィンドウに展示されているものが美術の著作物であり、かつ一定の期間以上設置されているものであれば、公開の美術の条件を満たすと考える。

なぜなら、物理的には内部であるが、通行人からすれば透明なガラスに覆われている建造物の外壁を見ているに過ぎないからである。そして、前稿の判例で示された「不特定多数の者が見ようとすれば自由に見ることができる広く開放された場所を指すと解するのが相当である」という見解を適用するならば、誰もが自由に見れる以上、内か外かの議論より、問題点は恒常性と著作物性に絞られるのではないだろうか。

ショーウィンドウ
写り込みを見れば、ショーウィンドウが一般公衆の見やすい野外の場所に、
恒常的に設置されていることが分かる。

ショーウィンドウとは、一般に商品を陳列し、消費者の購買意欲を刺激するために設置するものである。毎日、一週間、一ヶ月等、設置期間や商品のレイアウトなどは、自由に変更される可能性がある。従って、一律に恒常性を問うことなどできないのである。しかし、仮に一ヶ月以上、同じ状態で商品を陳列させたショーウィンドウがあったとすれば、どうなるのだろうか。最終的には、美術の著作物であるかが最も重要となる。

そもそもスーツやバックなどの大量生産の複製品は美術の著作物として保護されず、販売を目的とした複製品の場合、(※3)博多人形などの一部の美術工芸品を除き、その多くが著作権法の対象外である。著作物性に関して他に考えられることは、商品ではなくその配置である。即ち、独創的なレイアウトに対して思想又は感情が創作的に作用しており、全体として著作権の対象と成り得るかどうかである。これは状態によっては、かなり難しい判断になるだろう。複製品を素材で使用した一点ものの現代芸術的オブジェとして、思想や感情が創作的に表現されていれば、著作権が発生する可能性は否定できない。

しかし、一般消費者向けに展示されているショーウィンドウにそのような独創性が必要とされるとは、現実的には考えにくい。今回、本稿を書くにあたり100件以上の有名ブランドのショーウィンドウを調査したが、該当するようなものは一つもなかった。また、(※4)知恵蔵裁判ではレイアウトデザインそのものを思想や感情が創作的に表現された著作物とは認めない見解が示されている。こうした事情を踏まえると、商品として日常的に展示されているショーウィンドウの場合、それが著作物である可能性は限りなく低く、公開の美術には該当しないというのが、私が考察した結論である。

ショーウィンドウ
画面の右隅にポスター(肖像)の一部が写り込んでいる。
肖像の主が特定できる撮影法は、肖像権と写真著作権の侵害になる恐れがある。

以上を整理すると、原則としてショーウィンドウに著作物性はなく、また公開の美術にも該当しない。数日間の限定イベント等で展示された美術品でなければ、ショーウィンドウは、建物の外から自由に撮影して写真を公開できることになる。しかし、同法第四十六条を遵守することや、店員や通行人などへの肖像権への配慮、立ち入り禁止区域や店舗の敷地内に入っての無断撮影、設置者の名誉を著しく侵害するような写真の公開には、法的にも道徳的にも注意が必要である。これらのルールを正しく守った上でならば、表現活動が最優先されるべきである。

写真撮影:堤原稚登
(※1)加戸 守行/著『著作権法逐条講義』著作権情報センター2006五訂新版
(※2)田村 善之/著『著作権法概説』有斐閣 2001第2版
(※3)博多人形赤とんぼ事件(長崎地方裁判所佐世保支部・昭和48年02月07日)
(※4)知恵蔵事件(東京高等裁判所平成11年10月28日判決)
裁判所ウェブサイト『判例検索システム』法務省 http://www.courts.go.jp/
日本写真家協会編『スナップ写真のルールとマナー』朝日新聞出版2008第3刷
日本写真家協会編『写真著作権』草の根出版会2005改訂版
日本グラフィックデザイナー協会編『グラフィックデザイナーの著作権Q&A』2005第3刷

2011年10月某日

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