技術ファイル|音声収録(録音)編

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過大入力(ノイズ)対策、録音レベルのリミッター制御!FS-205

DSLRの音声収録では、外部ミキサーやレコーダーを使うのが一般的である。このような機器にはリミッターが搭載されているが、リミッターとは音声信号の過大入力(オーバーロード)による音割れ(クリッピング)を抑制し、適切な録音レベルを維持することでクリップノイズを発生させない機能である。DC-R302(ミキサー統合型レコーダー)の製品マニュアルにも「本機では、録音する信号が大きすぎるとリミッターが自動的に音量を下げて音の歪みを防ぎます。」と明記されている。しかし、現場での音声収録ではどうだろうか?勿論、性能の問題もあるが、突発的な過大入力を制御するはずのリミッターが機能しない場合がある。ここではリミッター機能の性質を把握し、適切な録音レベルを確保するための対策を考えたい。

DC-R302
HPF(ハイパスフィルター)80Hz、200Hz
ライン信号(-10db)
マイク信号(L-30dBu、M-45dBu、H-60dBu)
※2012.07出荷分以降のモデル
ピークランプ
ゲイン
PAN(L/C/R)

FOSTEX DC-R302は、どこまでゲインコントロールできるのか!?

DC-R302は、DSLR(デジタル一眼レフ)用に設計されたミキサー統合型レコーダー。アナログミキサーの操作性もよく、液晶インジケーターも分かりやすい。レコーダーは24bit/96kHz(WAV)に対応している。しかし、ヘッドルーム、リミッター機能に関しては、業界標準と呼ばれるようなENGミキサー(FS-302P、SS-302Rex等)には性能が及ばない。ラインの定格入力レベルが-10dBu、最大入力レベルが+10dBuなので、ヘッドルームは20dBu(最大入力と定格入力の差)。これでは過大入力の際にリミッターが追従できなければ、クリップしてしまう恐れがある。そのため収録環境によっては何らかの対策をしなければならない。

DC-R302
DC-R302操作部分

DC-R302は仕様上、各入力チャンネルとマスターの二カ所にリミッター機能がある。例えば、緩やかに信号レベルが上がり、OL(オーバーロード)にピークインジケーターが差し掛かると、左側のピークランプが赤く(点滅・点灯)なり、右側のリミッターランプが黄色く点灯する。この場合はリミッターが正常に動作している。しかし、ピークメーターが-15db前後を動いているのに、絶えず左側のピークランプが点滅し、結果的にクリップする場合がある。これは音圧、ダイナミックレンジの広い特異的な収録環境で発生するが、突発的な信号レベルを制御できず、「ジリッ!ガリッ!」と無惨なクリップノイズが発生してしまう。但し、三段階のアッテネーターもあり、一般的なPCMレコーダーと比較しても高性能なリミッターのため、大人数での和太鼓アンサンブルや、大音量のイベントやコンサートでなければ、概ね適切なゲインコントロールで回避できる。

多くのリミッターは、瞬間的なオーバーロードを追従できない!!

DC-R302のピークインジケーターではオーバーロードせず、実際に耳でも聞こえないのに、ピークランプが頻繁に点滅する場合がある。これは一部の回路が過大信号に反応しているからだ。例えば、クラブやライブハウスの場合、超重低音による物理的な振動が歪みとして録音されたり、人の聴覚では捉えられない瞬間的なレベルオーバーがある。高感度のコンデンサーマイクを使用したワンポイント録音では、こうした特殊な状況ではリミッターが追従できないことが多い。デジタルはアナログとは異なり、フルビットを超えてしまうと入力信号を認識できず、荒々しいノイズだけが残ってしまうのだ。

オーバーロードしても、すぐにクリップするわけではない!!

ミキサーには、ヘッドルームもしくはヘッドマージン(ピークレベルを超えてから、実際にクリップするまでの入力信号幅)があり、即座にクリップするわけではない。例えば、SIGMA SS-302 Rexなどは、ヘッドルームが30db以上あり、多くの業務用ミキサーにも、20db以上は設けられている。しかし、ヘッドルームはSN比(信号対雑音比)に大きく影響するため、こうした諸事情(ヘッドルームとSN比のバランス調整)を高い技術力で解決しなければならないため、業務用ミキサーは高額化するのだ。

ワンマンオペレーションで威力を発揮するPROTECH FS-205 ハイパーリミッター

FS-205
入出力共に、+4db(業務用ライン信号)、-20db(民生用レコーダー信号)
-60db(マイク信号)で切り替えが可能。ファンタム付き。

PROTECH FS-205Bは、単三電池8本で10時間駆動する高性能リミッター(FS-205の電池駆動バージョン)であるが、+30dbの過大入力を瞬時に抑えるハイパーリミッターだ。実売8万以上するが、DC-R302と同期させれば相乗効果が高く、驚くほどの効果を得ることができる。余計な信号さえFS-205Bでカットできれば、あとはカメラワークとDC-R302の操作に集中できる。24bit96KHz(WAV)で音源のバックアップが取れることも、特に音楽家達には喜ばれる。勿論、PAのライン収録よりバランスが取れており、高度なピンポイントステレオ録音の技術がある前提である。


GH3
この二機種の相性は抜群であり、ENG収録では必須である。
これでクリップさせた場合は、オペレーションミスと言わざる得ない。

FS-205BとDC-R302の同期(マッチング)方法

DC-R302のラインは、業務規格の+4dbでなく-10dbである。FS-205Bの出力レベルは、+4db、-20db、-60dbのため、この場合でのベストマッチングは-20db出力(LINE)から-10db入力(LINE)であり、10dbのマージンを稼ぐことができる。ヘッドルーム+20dBuを考慮すると、この “ ゆとり ” は重要なのだ。+4db出し-10db受けでは、逆に14dbのマージンダウンとなるため過大入力対策の意味がなくなってしまう。音響機器間はライン信号のやり取りが基本なので、-60db同士(マイクレベル)ではS/N比の問題からも適切ではない。

FS-205BのメーターをVUではなくPEAKに設定し、1KHzの同期信号を出力。FS-205Bのピークメーターが-20dbを指すため、DC-R302もピークインジケーターで確認しながら-20dbにゲインを合わせる。すると、DC-R302の入力ゲインが2時を指す。FS-205Bの出力ボリュームは、プロテックカスタマーサービスの技術者によると、1時が推奨値(デフォルト)らしい。 これが同期の基準値である。後は、実際に収録する音量音圧にあわせて、それぞれの入力ゲインや出力ボリュームをコントロールすればよい。

FS-205Bの利点は、単に過大入力をカットするのではなく、ピークレベルの波形を自然に残した状態で、音量音圧を抑制できることだ。厳密には機械的な信号処理のため純粋抑制ではないが、人の聴覚では自然に抑制されているように認識でき、ピークメーターで反応しない信号レベルもUVメーターで確認できる。また、小型のためストラップで首からぶら下げたり、リグに組み込むことも可能だ。常用する必要はないが、大音量の音声収録では必須なので、突発的な状況への備えとして現場には持参しておきたいアイテムだ。

2013.05

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