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非婚社会の到来|なぜ、婚活の末に結婚難民になるのか!?

前稿では、近代家族の変容について論じたが、本稿では同主題におけるコミュニケーション(相互行為)として結婚を例に挙げる。G.P.マードックの核家族説を基準とすると、家族の起点は夫婦関係の形成にある。つまり結婚の是非である。日本における夫婦関係は、憲法第24条で規定された婚姻の原則に基いて成立するものであるが、近年、国際的にも結婚に対する価値観は、ますます多様化している。ここでは、結婚に関する男女の意識について考察する。

適当な相手にめぐり合えない?

初めに、厚生労働省『平成20年人口動態統計月報年計(概数)』によると、平均初婚年齢は男女とも1970年代半ば以降、上昇を続けており、2008年には男性で30.2歳、女性で28.5歳となった。こうした晩婚化に伴い、20歳代から30歳代の未婚化も大きく進展しており、総務省統計局「平成17年国勢調査」では、男性30~34歳の未婚率は47.1%、女性25~29歳の未婚率は59.0%となっている。このように、結婚の動向としては晩婚化、未婚化が急激に進行しており、これらが生涯未婚率の上昇に反映されている。それでは、なぜ晩婚化、未婚化が進行したのか、適齢期の独身者から結婚願望がなくなったのだろうか。

そこで全国の20代独身男女1164人、20~30代の独身男女1247人を対象に実施された結婚に関する意識調査を参考にしてみた。しかし、いづれも89%、69.2%と高い水準で結婚願望があると回答し、20代から30代の多くの独身者が結婚を希望しているにも関わらず、結婚できない状況にあることを示している。平成21年版『厚生労働白書』によると、25歳から34歳の独身者が結婚しない最も多い理由に、男性45%、女性49%の割合で「適当な相手にめぐり合わない」ことを挙げている。この適当な相手がいないという理由が晩婚化、未婚化に直結するならば、適当とは、どのような条件なのかを知る必要性がある。

女性は経済力、男性は容姿を求めてさまよう…

調査結果では、結婚意識に関する男女の差異が明確にでている項目がある。全体の72.8%が「結婚には多少の妥協は必要だ」と考えているにも関わらず、女性72.8%が男性の経済力を重視しており、66.6%が結婚後も働きたいと考えている。そして、男性37.6%は女性の容姿を重視している。女性の容姿は男性の主観(好み)が介入するため本稿では客観的に分析することは見送るが、女性は男性に、どの程度の経済力を求めているのだろうか。

結婚相手に望む必要最低希望年収調査では、40.3%が年収500から700万円未満と回答しており、平均年収600万円はサラリーマンの平均年収437万円を有に超えるものであり、女性の年齢が上がるほど、希望額も上昇する傾向にある。これに2007年(過去5年対象)の初婚同士の平均年齢差1.8歳を考慮すると、男性は年齢差1.8歳未満の容姿端麗な女性、女性は年齢差1.8歳未満で年収600万円以上の男性が、各々の適当な相手と判断する基準があるようだ。20代から30代の独身者が多少の妥協をしてこの水準であることが未婚化、晩婚化に大きく影響している。しかし、自分の生活圏内にこの条件を満たす異性が一体どれくらい存在するのかを冷静に考えるべきである。

三平女子でも、解決策にはならない!?

2012年になってようやく、平均的な年収、平凡な外見、平穏な性格を望む「三平女子」というキーワードがマスコミに登場するようになった。しかし、希望年収を437万円に妥協したところで、年齢差問題があるため決してハードルは低くはない。専門家の「共働きなら解決できる」という指摘はもっともだが、経済力を重視する場合、希望年齢差1.8歳未満に対する意識改革が必要だろう。

国税庁「民間給与実態統計調査結果(平成23年)」によると、平均年収が600万円を超える世代は44歳から59歳である。 この年齢での独身者となれば離婚経験者も多い。女性が結婚相手に年収600万以上を望むならば、44歳以上の離婚経験者まで許容しないと現実的ではないのだ。そして年収600万円以上の独身男性は人口の密集する東京都内でさえ3.5%しかいない。平均年収が437万円を超える世代でも33歳以上である。

婚活パーティー、合コン依存症から結婚難民へ…

しかし、この水準の経済力が結婚生活に必ずしも必要なのだろうか。現在の社会情勢では水準以下の夫婦世帯が数多く存在するのが事実であり、現実を直視せず、妥協と理想を履き違えているように思えてならない。本来であれば、古くからの血縁、地縁、宗教等のネットワークが彼らを悟らせるのだろうが、社会の変化に伴いそれらは弱体化している。変わって台頭したのが、市場経済に組み込まれた『婚活』サービスである。未婚者を狙った婚活サービス市場は、インターネットやマスコミの相乗効果で急成長を遂げているが、晩婚化、未婚化は一向に歯止めがかからない。その理由は明確であり、人は選択肢や情報が増えるほど、「もっといい人がいるかも知れない」という迷いや錯覚が生じる。ましてや結婚となれば尚更であり、その結果、心身は疲れ果て時間の経過と共に、自らの婚活市場での価値も下がり続ける。婚活疲れから鬱病を発症する事例も多いという。しかし、参加者には「せっかくお金を支払っているんだし、ここまで来たら相手に妥協はできない」という意見が多い。このように、現実(リアル)でペアとなるべく異性を探せないから、ネット婚活や結婚情報サービスを利用しているという自覚が全くない。

合コン屋は行き過ぎた市場原理の産物か?

条件に近い異性と出会っても、積極的に相手とコミュニケーションをとらず、また来週は別のグループという流れで、毎週、毎月のように合コンをセッティングする女性グループが急増しているという。こうした現象をマスメディアなどは“結婚難民”や"婚活難民"などと揶揄するが、実社会では未婚者が難民化し、深刻な事態となっている。甚だ疑問だが、来週末も再来週末も合コンが決まってる状況で、今、目の前にいる合コン相手の男性が自分の結婚相手に相応しいのかなど、冷静に彼女たちは判断できるのだろうか。未婚者の妥協ラインが大幅に下がらない限り、こうした婚活サービスの恩恵があるのは条件を満たす一部の該当者に集中し続けるだろう。しかし、一概に彼女達を攻めることはできない。その背景には草食男子の増加、格差社会問題、過剰な婚活市場の実態があるのだ。中でも、匿名のプロフィールを公開しておくだけで、多数の合コン希望者が押し寄せる合コンセッティングサービスの存在が女性の婚活難民を増加させているのだ。最近の街コンブームも同様である。

以上のように、多くの男女に結婚願望はあるものの相手に望む水準を下げてまで、結婚の必要性を感じていないというのが、未婚者の共通意識のようである。これらへの意識改革には、独身老後の様々なリスクや孤独死問題、セーフティネットとしての家族の重要性を真剣に捉えること、そして何より婚活市場での自己価値を客観的に受け止めることだろう。このままでは少子高齢化、社会保障制度の財源不足、労働力減少といった負のスパイラルを避けられない。国民一人一人がこうした事実と向き合い、国を挙げて意識改革をしなければならない時代に突入したのだ。

「相手に望む水準を下げてまで結婚の必要性を感ぜず、然もその水準が現実離れしている」となれば、己を顧みず、相手を思い遣ることもできず、子を案じる親や親族の意向も無視し、ただ自己の欲望を満たすことしか考えていないのと同義ではないだろうか。結婚とは他者とのコミュニケーション行為である。身も蓋もない話になるが、社会科学的にも身の丈に合う相手としか結婚は成立しないものだ。結婚難民、婚活難民の解決には、当事者の抜本的な意識改革が必要なのだ。

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[近代家族の変容]なぜ、人間コミュニケーションは希薄化したのか!?

【参考文献】
山田昌弘著『結婚の社会学-未婚化・晩婚化はつづくのか』丸善ライブラリー1996
水野真由美/著『見切りの早い女・すぐにあきらめる男』宝島社2008
厚生労働省「平成20年人口動態統計月報年計(概数)」
国立社会保障・人口問題研究所『第12出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)第Ⅰ報告書-わが国夫婦の結婚過程と出生力-』
iMiリサーチバンク「結婚に関する調査」2006
オリコン『結婚相手に望む必要最低希望年収』2007
HOME'S リサーチ「20代社会人の恋愛観と同棲に関する調査」2007

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